映画『リライト』ネタバレなしで魅力を解説

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あくまで筆者の印象では、公開当初から世間的にはあまり話題に上らなかった映画『リライト』。

原作は法条遥氏による小説で、その後3本の続編が生まれ、シリーズ作品へと展開している。

本稿では、筆者はまだ原作小説を読んでいないため映画版のみに絞って感想・魅力を撰述していくが、あまり話題になっていないのが実に勿体なく思えるほど、完成度の高い良作であった。

某レビューサイトでは、公開から一カ月後の評価がおよそ星3.6と一見すると中庸な印象だが、個々の感想を覗いてみると、むしろ好意的な意見が多く寄せられているように見受けられる。

ここからは、知る人ぞ知る名作『リライト』について、ネタバレは避けつつも公式サイトに記載されているストーリーに触れながら、その魅力を解説していきたい。

『リライト』あらすじ

高校3年の夏――主人公・石田美雪のクラスに、園田保彦が転校してくる。彼は一冊の小説を読み、小説の舞台となるこの町へ300年後の未来からタイムリープしてきた未来人だった。ひょんなことから保彦が未来人だと知った美雪は、その秘密の共有が二人の仲を深めるように、恋に落ちていく。
7月21日、一時的に未来へタイムリープした美雪は、わずかな時間に出会った未来の自分から、自身が一冊の小説を書きあげることになると告げられる。それは保彦が高3の夏にやってくることになった小説だと言った。
未来へ帰っていく保彦に美雪は約束する。「この夏のあなたと私の物語を書き、必ず時間のループを完成させる」自身が小説を書き、保彦が自分に会いに来てくれるループを完成させると。

10年後――小説家になった美雪は、その瞬間を迎えるため、小説を手に実家に帰省する。過去からやってくる自分と会い、この小説をあなたが書き上げると告げる。美しい青春のループが完成する。
そして運命の7月21日、その場所に過去の美雪は――来なかった。

なぜ?このままではループが破綻してしまう。誰かが過去をリライトした?
そこには美雪の知らない、あの夏の真実があった。

映画『リライト』公式サイト

映画『リライト』魅力その①:挑戦的な最初の30分

映画『リライト』の魅力をネタバレなしで解説するにあたり、まずどうしても触れておきたいのは、冒頭約30分の物語だ。

率直に言えば、その30分は<苦痛>とさえ感じられるかもしれない。だが同時に、作品のすべてがそこに凝縮されているとも言える。

事前情報を一切持たずに鑑賞を始めた観客なら、30分が経過したあたりで「なんじゃこりゃ?」と思わず口にしてしまうだろう。

筆者は原作小説を未読のため、あくまで映画に限った感想となるが、この30分は「映画」という媒体を最大限に活かした仕掛けになっている。

もしこれがテレビドラマや配信作品であれば、30分の時点で視聴をやめても不思議ではない。

だが、自ら2000円近い料金を支払い、スクリーンに向き合う“映画”という媒体だからこそ、途中で席を立つ観客はほとんどいない。そして、その30分の物語が迎えるオチを目撃した瞬間、観客はもう席を離れることなどできなくなっているのだ。

映画『リライト』魅力その②:タイムリープSF恋愛青春モノをrewriteする

映画『リライト』の魅力その2。

公式サイトで紹介されているあらすじに含まれるため、ここはネタバレには当たらないと考えて記すが――映画冒頭の約30分は「ネタ的に」「メタ的に」「ベタ的に」まさにタイムリープSF恋愛青春モノの王道ドラマを見せつけられることになる。(内容は当記事のあらすじを参照)

「タイムリープSF恋愛青春モノ」と聞いて思い浮かべる作品は、観る人の世代によって異なるだろう。だが、それで構わない。なぜなら、それぞれの時代に存在した作品群が下地となり、この映画は形づくられているからだ。

さらに、最初の30分を経て物語が展開していく中でも、様々な既存作品をメタ的に扱いながら、ミステリー要素を織り込むことで、一つの独自の物語が完成していく。

そう、映画『リライト』は、過去のタイムリープSF恋愛青春モノを“rewrite”し、新たなオリジナル作品として立ち上げているのだ。

映画『リライト』魅力その③:考察至上主義現代のためのタイムリープ作品

映画『リライト』の魅力その3。

過去のタイムリープ作品を振り返ってみると――筒井康隆氏の同名原作による映画『時をかける少女』は、タイムリープという不可思議な現象と、少女の身に降りかかる非日常を描いた作品であり、細田守監督による『時をかける少女』も同じ系譜にある。

タイムリープとは少し異なるが、『涼宮ハルヒの憂鬱』のエピソード「エンドレスエイト」は、いかにしてループを抜け出すかを描き、押井守監督の『ビューティフルドリーマー』についてはもはや説明不要だろう。

つまり、これら過去の作品はタイムリープ(あるいはループ世界)の中で、主人公がどのように行動するのかを観客が“傍観”するスタイルを取っている。

また、映画『リライト』の脚本を手がけた上田誠氏は、かつて『サマータイムマシン・ブルース』でも脚本を担当している。こちらは物語前半に散りばめられた「謎」「フリ」「伏線」が、後半で心地よく回収されていく快感を楽しむ作品だ。

対して今回の『リライト』は、そうした過去のタイムリープSF恋愛青春モノを単に踏襲するのではなく、登場人物が“物語=過去”そのものを考察することで、観客にも思考を促す仕組みになっている。

冒頭30分は、あえて「他人の物語」を見せつけられるような構成。しかし本編が始まると同時に、「さあ、皆さんも一緒に考えてみましょう」と語りかけられるように、観客自身が物語に巻き込まれていくのだ。

これは別記事で魅力紹介をしたドラマ『何曜日に生まれたの』や『海に眠るダイヤモンド』も同様の作りとなっており、考察至上主義である現代の作品作りの基盤となっているのかもしれない。

映画『リライト』魅力まとめ:令和の青春時代に観ておくべき邦画作品

以上が、映画『リライト』についてネタバレを避けつつ紹介した魅力の三点である。

映画――特に邦画においては、学生時代に触れる“青春時間”を描いた作品が、その後の自分自身に大きな影響を及ぼすことが少なくない。

もちろん洋画やその他のジャンルの邦画でも、学生時代に名作と呼ばれる映画を観れば強い影響を受けるだろう。だが“青春時間”を描いた作品には、それらとは異なる特別なフレームで心に保管されるものがあるのではないか。

たとえば『ピンポン』『ウォーターボーイズ』『リンダリンダリンダ』、そして先に挙げた『サマータイムマシン・ブルース』などがそうだ。観返した瞬間に、あの頃の感覚へ一気に引き戻される――そんな物語たちである。

映画『リライト』もまた、それらと同じように、学生時代に出会えば感想や評価は人それぞれであれ、その人の心に深く焼き付く一本に違いない。

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