2024年10月からTBSにて放送された日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』。
第48回アカデミー賞にて、映画『ラストマイル』で最優秀脚本賞を受賞した野木亜紀子氏によるテレビドラマオリジナル作品である。
視聴率は過去の同氏作品のそれらと比較すると決して高い数字とは言えないが、SNSではこの『海に眠るダイヤモンド』の考察や感想で盛り上がったり、度々作品名がXのトレンドに入ったりするなど、リアルタイムでも注目度が高かったことがうかがえる。
今作を完結した今振り返ってみると、他のドラマと一線を画す作品の出来に仕上がっており、現テレビドラマ界の中で最先端を走る作りになっていた。
今回はそんな『海に眠るダイヤモンド』の魅力をネタバレなしで紹介していく。
時は2018年。日常を流されるように無感情に過ごしていたホストの玲央は、ある日謎の老婦人・いづみから突然「私と、結婚しない?」とプロポーズされる。
いづみは長崎の端島(軍艦島)出身で、端島が発展していく最盛期をその地で過ごしたが、その頃に一緒にいた最愛の人・荒木鉄平と玲央がそっくりなのだという。
今は閉鎖された端島に、玲央と共に数十年ぶりに訪れるいづみは、彼女の過去を語り始める。
それは1955年。大学を卒業した荒木鉄平が端島へ帰郷してくるところから始まる。
いづみは何者なのか。彼女が端島に置いてきた、愛しい人の思い出とは――
TBS公式サイト『海に眠るダイヤモンド』
※公式サイト相関図にはネタバレが含まれているため注意が必要
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各世代に向けた視聴者への登場人物と鑑賞ポイントのハイブリット化
『海に眠るダイヤモンド』の魅力ポイント一つ目は、登場人物と舞台設定。
単に魅力的な登場人物が描かれているという意味ではなく、その設定と作品の舞台が各年代への視聴者に広くハマるようにハイブリット化されていた。
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現代の若者を体現した現代編の主人公・玲央
現代編に登場する、神木隆之介演じるホストの玲央。その人物像は、そのまま現代の若者にあてはめることができる。
日常をただ消費するように生きて、人間関係は最低限の上辺だけ。ニックネーム(源氏名)で過ごすことに違和感を覚えず、若者が好みそうなカップに入ったラテを飲んでいる。
その人物像はさながら、ネットの海を漂いSNSの島を匿名で渡って、バズっているものを身に着ける現代の若者ではないだろうか。
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かつての時代を懐古する舞台設定と人間関係

そして舞台には端島(軍艦島)を設定し、いわゆる「上がり」が決まっている――テレビドラマをゆっくりと鑑賞できる年代の――視聴者層に、自身の働きが国や社会の貢献に繋がっていたかつての時代を懐古させるように提示している。
またどちらにも属さないロスジェネ世代――はたまたトレンディドラマ世代――の視聴者層には、彼らが好むような小さな島での小さな「数画関係」を楽しんでもらう。
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「過去の物語を考察する」物語を考察するというメタドラマ
『海に眠るダイヤモンド』の魅力ポイント二つ目は、ドラマの作中で、現代編の主人公である玲央が視聴者と同じように過去を考察しているというその設定。そしてその玲央ですら視聴者の考察対象だというメタな構造。
このドラマでは最初に2つの「謎」が提示される。
ドラマ『何曜日に生まれたの』についての記事でも撰述したが、現代は考察至上主義ともいえる。
ただ単に物語について考え察するという考察ではなく、他の視聴者が気づきにくい伏線や展開の予想をSNSにアップして盛り上がり、いいね数を稼いで他と考えを察し合う。
そんな考察至上主義の現代において、このドラマは面白い構造になっている。
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現代編での登場人物いづみは過去の登場人物の女性3人の中の誰なのか
主人公の玲央に「私と結婚しない?」と声をかけてきた謎の婦人・いづみ。
玲央は彼女から、かつての端島での暮らしや出来事を聞かせられるのだが、視聴者(と玲央)はその端島にいた3人の登場人物、朝子(杉咲花)・百合子(土屋太鳳)・リナ(池田エライザ)のうち、誰がいづみなのかを分からないまま物語が進んでいく。
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ホストの玲央は荒木鉄平と関係があるのか
いづみが物語の最初にプロポーズを持ち掛けた相手であるホストの玲央は、いづみが忘れられない男性・荒木鉄平とそっくりな顔をしている。
視聴者は当然、玲央が荒木鉄平と関わりがあるのか、あるとするならばどういった関係性があるのかなどを早い段階から考察し始める。
ネタバレにならない範囲で撰述するが、物語自体も、当然彼らの関係性の謎について描かれる展開が用意されている。
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「作中の人物が物語を考察する」「考察している人物を考察する」という作品のメタ化
以上で述べた点を、ドラマ『海に眠るダイヤモンド』では「作中の登場人物が過去(=物語)を考察していく物語」を同じように視聴者も考察しているという構造が出来上がっている。
また視聴者が最初から考察していた「玲央と荒木鉄平の関係性は?」というものに物語自体が途中で追いつき、いつの間にか作中の登場人物と共に考察を終え、「端島で一体何が起こったのか」というドラマを鑑賞している状態になる。
ネタバレになるので撰述することはできないが、物語の最後には登場人物と視聴者が観たかった景色を脚本家の野木亜紀子氏は用意してくれている。
それが何かは、最後まで物語と向き合った人にしかわからない。
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まとめ
以上が、ドラマ『海に眠るダイヤモンド』の魅力ポイントの紹介である。
「あの日の真実は?」という作りのドラマや映画は過去にも沢山あったが、それらは往々にして「登場人物による過去語り」であり、「登場人物による考察」という形はとられていなかった。
『何曜日に生まれたの』でも類似の手法はとられてはいるが、「作中で考察する人物」の立ち位置が今作とは異なっている。
他人の物語に興味がなくなってしまったという昨今、今世間が好んでいる「考察」を通して他人の物語(=過去)を覗き込んでもらうことによって、物語が人に与える影響をメタ的にも見つめることができるこの作品は、まさに現代のテレビドラマの最先端といえる。